自分の言葉を、他者を通して聞く ――カウンセリングにおける「山彦」の働き
日々、相談者(以後、クライエント)やカウンセラーを目指す人たちとの出会いの中で感じたこと、気づいたことを、これから少しずつ言葉にしていこうと思う。話題も掲載時期も気ままに、気負わず続けていくことを大切にしたい。
最初に取り上げるのは、「山彦(やまびこ)」と呼ばれる傾聴技法である。
「山彦」とは、クライエントの言葉や感情をそのまま、あるいは少し言い換えて返す技法である。一見すると、相手の言葉を繰り返しているだけで、何の発展性もないように思えるかもしれない。しかし、臨床経験を重ねる中で、私はこの技法が、クライエントとの関係を支え、カウンセリングを進めていくうえで大切な働きをしていると感じてきた。
たとえば、クライエントが「もう疲れました」と話したとき、カウンセラーが「もう疲れたんですね」と返す。言葉の内容はほとんど変わらない。それでも、クライエントは自分の言葉を、他者の口を通して聞くことになる。そこで初めて、自分が何を語ったのかを、少し距離を置いて捉えられることがある。
自分の内側で考えているとき、私たちは考えている自分と、その考えの内容とを、なかなか切り離せない。しかし、自分の言葉が他者から返されると、それを改めて聞き直し、自分について考えるきっかけが生まれる。「本当にそうなのだろうか」「ほかの気持ちもあるのではないか」。そんな問いが、少しずつ生まれてくることもある。
このように「山彦」は、自分の体験を、ただ感じるだけでなく、改めて見つめ直すためのきっかけとなる。そこに生まれる心の余白が、自分の体験を別の角度から捉えることにつながっていく。
私が大切だと考えるのは、単に言葉を繰り返すことではない。クライエントの言葉をいったん受け止め、それを本人が改めて聞けるように返すことである。「山彦」は、クライエントの内側で完結していた独り言を、他者との対話へと開いていく営みともいえるだろう。その往復の中で、クライエントは自分の言葉を聞き直し、自分自身への理解を深めていく。
では、この「山彦」は、カウンセラーにとって、どのような意味を持つのだろうか。次回は、言葉を返す側にいるカウンセラーの視点から考えてみたい。
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