帰国子女と日本の学校
外国で教育を受け、帰国した日本人の子弟を「帰国子女」と言います。外国語を流暢に使い、異文化の雰囲気を漂わす立ち振る舞いは、華やかさと羨望の的です。しかし、彼らが日本の学校に適応するのは、想像以上にしんどいようです。開放的で自主選択の幅の広い欧米の学校で学んだ子どもは、閉鎖的で画一的な日本の学校生活は息苦しく、大きなギャップに戸惑いがちです。
その辛さから教室に入れず、登校できなくなる帰国子女もいます。そんな時、個人的な顔見知りが声をかけると、保健室登校や別室登校を始める子がいます。しかし、教室に近づくだけで緊張感いっぱい。特に、給食への拒否感が強く、きちんと残さず食べることを美徳とする指導にはついていけません。また、親の中には子どもの不調に不安となり、滞在国の教育のよさを主張し学校に批判的になることもあります。こうなると子どもの不安感はさらに強くなり、母親から離れることができません。
こんな時、適応教育担当の私は、別室を運動場にして、相撲、鬼ごっこ、かくれんぼ、輪投げと毎日一時間、教室へ入れない子供と遊びまくります。活発な男子だと力いっぱい相撲をやり、余る力とストレスを発散させます。押し合いになると紅潮した顔で、「ウーッ!」「ヤーッ!」と唸り声を上げたり、さらに興奮すると、私の手にガブリと噛みついたりすることも。痕には、唾のついた手に歯型がくっきり残り、思わず、「痛い!」と言うとやめます。しかし、その後も噛みつきが数回続いたとき、ふとその子が給食を食べれないことを思い出し、その苦しさの一端を感じました。こんな付き合いの中で子どもの表情は落ち着き、元気を取り戻して時は過ぎていきます。また、教室は入れなくても、運動会や遠足などの行事には参加したり見学したりして、つながりをつけていく子もいます。
そして。安心感を得て元気になってきた子は、同級生の誘いに応じるようになります。別室へ顔を出す友達と笑顔で話すうちに、緊張でガチガチになりながら教室での生活に挑戦するようになります。この過程は、十人十色で子ども一人ひとりいろいろな展開を見せますが、不思議に子どもも私も時が来たのを感じると、子どもは動き出し、私は見送ります。
学年末はこの変化の大きい時で、すっかり教室に慣れた先の相撲の男子にばったり廊下で出会いました。ニコッと笑顔。「いっちょうやるか?!」と一声、闘う身構え。最後の挨拶代わりの押し合い相撲をすると、翌週、修了式とともに「さようなら!」の元気な声を残して、東京方面へ転校していきました。
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